イギリスのシンガーソングライター、マルチインストゥルメンタリストNatalie Evans(ナタリー・エヴァンス)。2022年6月に2作目となるフル・アルバム『Movements』をSmall Pondよりリリースしました。『Movements』は、これまでの彼女の作品の良さを生かしつつもまさに新しいステージへと踏み出したような新鮮な作品でした。Rodentia Collectiveでは、対訳付き国内盤CDをリリースしたこともあり、彼女へのインタビューによって、よりこの作品の世界観を深く知るためにメールインタビューを行いました。Natalie Evansの生い立ちや音楽的背景は以前のインタビュー、「Interview with Natalie Evans」にて読むことができます。今回のインタビューでは、『Movements』について深く掘り下げていきます。それでは、お楽しみください!


題材にされている”夜”について
Q: あなたから新作の発表のニュースと音源を受け取った時に全曲聴いて、これは日本盤も出さないといけないな、と思いました。前作『Better At Night』(2018)の時よりもサウンドが大きく変化しているという事実ももちろんそうですが、特に歌詞の内容も重要で、一人でも多くの人に聴いてもらいたいと思ったのが強かったです。
オープニングトラックの「Driving Home Late」はこのアルバムの始まりにふさわしい1曲だと思います。特にあなたの作品は”夜”をテーマにしている作品が多い印象を受けます。前作も『Better At Night』というタイトルでしたね。
また「Driving Home Late」のビデオのラストシーンは、アルバム全体の雰囲気を表しているようにも見えます。それは、日中の太陽が落ちて夜になる前の瞬間。あなたは夜に対して、どういった個人的な思い入れがあるのでしょうか?また、ビデオを撮影した場所はイギリスのどこなのでしょうか?
Natalie Evans (以下、Natalie): まず、日本のリスナー向けへの対訳を制作してくれてありがとうございます!
あなたが言ったように、このアルバムは、歌詞が特に重要な意味を持ちます。そして、Rodentia Collectiveがこんなにも美しい対訳付き日本盤CDを制作してくれたことは、私にとって本当に大きな意味があります。
確かに、私は文章を書くときに夜をよく題材にしています。夜は私が好きなものが本当にたくさんあります。夜道や窓の明かりを見るのも好きですし、夜空を見渡せるので、視野が広がります。私のお気に入りの思い出や会話の多くは、夜の間に起こったものです。
また、日中と比べて生産的でなければならないというプレッシャーが少ないので、休息や自分探しの時間も取ることができる…。このようなことから、夜はとても内省的な時間だと思います。
“「Driving Home Late」での日が沈む前の瞬間は、アルバム全体のムードを表しているような気がする”というお話は、とても素敵だと思います。なぜなら、それは私が好きな瞬間のひとつだからです。夜が明ける直前もそうですが、日没の時間のような、私を取り巻く周りのものがまだ動いていたり、まだ落ち着いていなかったりする…そんな中間の瞬間に穏やかさを見出すことが多いんです。
そして、このビデオはイーストサセックス州のシーフォードで撮影され、最後のシーンはロンドンで撮影しました。
パンデミック期間の制作について
本作は、パンデミックの期間中に制作されたアルバムとなりますね。イギリスのロックダウン下において、あなたはとても大変な時期を過ごしていたと思います。日本ではイギリスのようなロックダウンというものはありませんでしたが、外出を自粛するように国から制限されていました。また、ライブハウスなども休業し、海外アーティストの来日公演はほとんど中止になりました。
だから、あなたのようにYoutube LiveやInstagram liveなどの配信をしてくれたのは本当に嬉しかったです。世界的なパンデミックを受け、音楽制作に対するモチベーションなどの変化はありましたか?また、それはこのアルバムにどのような影響を与えましたか?
[Natalie]: イギリスがロックダウンの間、私生活の中では様々なことが起こっていて、これまでのように座って曲を書くのに必要な落ち着きと静けさを見つけるのは難しい状況でした。その代わり、外出が許されるときは音楽を聴きながら外を歩いたり、できるときは歌詞も書きました。また、音楽制作に関するビデオを見たり、自分の助けになるような本やインスピレーションを与えてくれる本を読んだりもしました。
最後のほうは、友人たちが練習場所を教えてくれたり、ドラムセットを持っている人がいてとても楽しく練習できました。「Movie」はその練習場のひとつで書きましたし、他の曲はロックダウンの直前や、解除された直後に書きました。

音楽制作のビデオを見て学んだことが、デモやアレンジに役立ちましたし、外を歩きながら聴いていたものからインスピレーションを得たことも、結果的にアルバム制作に反映されたのだと思います。
まだ予断を許さない時期ではありましたが、事態が好転してきたのでレコーディングのためにスタジオにも行きました。久しぶりに車に楽器を積んで、また音楽という自分にとってのミッションに再び参加できるようになって…とても幸せな気分だったのを覚えています。
アルバムのサウンドの変化について
本作では、これまでのあなたの作品の中でもよりピアノが主体となる曲が増えた事により、とても表現の幅が広がったように感じます。特にオープニングの「Driving Home Late」とエンディングの「Guest Room」はいずれもピアノのイントロから始まっていますね。
これまではギター主体の音楽だったものが、ここからネクストステージへと移った、そのように確信しました。そして私は、2022年のこの作品はNatalie Evansの新しいステージだ、というように認識できました。だから自信を持って多くの音楽リスナーに届けたいと強く決意しました。なんというか…更新された音楽だと感じます。前作『Better At Night』から4年経った今、あなた自身もそのように感じていますか?
[Natalie] アルバムやサウンドの変化について、そのように理解してくれて本当にありがとうございます。私の人格の別の側面や、より最近影響を受けたものが表れているので、アップデートされた音楽だと感じています。
『Movements』のために曲を書き始めた当初は、以前と同じ複雑なスタイルで書こうとしていました。でも、あまり自然な感じとは言えず、自分の中から書くというよりも、それ(以前と同じ複雑なスタイルで曲を書く事)は人々の期待に応えるためだということに気づきました。それで、代わりに自分が何かを感じられるメロディやコード進行だけを扱うようにして出来たのが『Movements』というわけです。
本作をリリースしたことで、どんなに複雑でもそうでなくても、自分はどんなスタイルの音楽でもリリースできる人間だと再定義できたような気がして、とても自由かつ解放感のある気持ちになりました。
アルバムアートワークについて
これまでのあなたの音楽の印象は、どちらかというと活発、元気、ポジティヴというものでした。歌い方も跳ねるように歌ったり。しかし、今作の印象は落ち着いた、内省的で、洗練されているようなイメージへと変化した気がします。
私は音楽を聴く時、そのアーティストのファッションやアルバムアートワークにも注目します。今回の作品はあなたの衣装は黒で統一されていて、シックでエレガントかつとてもシンプルなものでした。それは、サウンドとも呼応しているように感じます。また、そこには人間としての成長も感じられます。こういう雰囲気にした理由は何故ですか?

[Natalie:] 私の新しい音楽が洗練されたものであると言ってくれて、本当にうれしいです。ここ数年は自分の人生に落ち着きを求めることが多かったので、きっと音楽もそのようなものになったのだと思います。アルバムカバーはシックで黒を基調とした衣装を選びました。そして、全体的にミニマルな印象のアルバムアートワークにすることで、イメージも落ち着き、視覚的にも整理された印象にしたかったんです。


アルバム制作について、周りのメンバーについて
このアルバムは、とてもシンプルな構成だなと感じました。シンプルだからこそ歌詞が自然に耳に入ってくる。これは、とても心地の良いサウンドです。使用している楽器は、あなた自身の演奏でピアノ、ハープ、ギターですよね?クレジットによるとドラムやストリングスはゲストが参加しているけれど、決して大人数ではないですね。Rebecca Maisey(cello, viola and violin)とMartin Ruffin(drums)は前作でも関わっています。アルバムを作るにあたって、このように少人数で制作した理由を教えてください。
[Natalie:] ありがとうございます。というのも、スタジオに入る前にすでに曲のアレンジを含めたデモができていたので、レコーディングの際には少人数のチームしか作らず、より多くのミュージシャンをスタジオに参加させるのはクリエイティブな要素でのコラボレーションが主な理由でした。
プロデュースとミキシングを担当してくれたMartin Ruffinだけは、このクリエイティブなインプットが必要だと思ったのです。私の主な楽器は、ピアノ、ハープ、ギターです。ですが、このアルバムではベースとパーカッションも演奏しています。できるだけ多くの楽器を自分で演奏することに楽しさとやりがいを感じていますし、そうすることでいつも何か新しいことを学ぶことができます。
『Movements』というタイトルについて
あなたは以前のインタビューで、幼少期に体操をやっていたと話していました。『Houses』(2014)にも「Gymnastics」という曲があるように、あなたと体操はとても密接な関係があるように見えます。そして「Movie」のビデオではとても優雅で素晴らしいダンスをしていました。アルバムのタイトルは『Movements』ということですが、体操と本作はどのように関係しているのでしょうか。
私は幼い頃から体操をやっていて、体操選手でした。そしてそれは私の人格形成の大きな部分を占めていました。パンデミックの間、自分の一部分が欠けてしまった気がしていました。そこで、(欠けたものを取り戻す為に)体操をもう一度やろうかと思いましたが、ずっとやってみたかったダンスを始めることにしたんです。
そして、アルバムのミキシングやマスタリング、準備の過程でダンススタジオに通うようになりました。当時、音楽にはもっと論理的な思考が必要だったので、ダンスが私の主な創作活動の場となったのです。ダンスを作っていくプロセスが、曲作りと似ていることがとても興味深く、興奮とインスピレーションを与えてくれました。
アルバムジャケットをダンスの写真にしたのは(だからタイトルも「Movements」なのですが」)、曲の中にhappyとsadのバリエーションがあったからです。そしてこの1枚の写真で、その両方の感情や動きを表現できることに気づいたからです。また、この感情をあの頃や若い頃の自分に捧げる気持ちもあります。
ラストを締めくくる「Guest Room」について
これはすごく個人的な質問です。アルバムのラストトラック「Guest Room」の一節、
And in that room I realised Everything I ever felt was Leading to what came next Like winter into warmer months And I felt peace like I was watching a plane window turn into a mirror Everything’s okay when it’s in equal balance It’s funny how artificial light looks so good in the distance その部屋で気が付く 今まで感じてきたこと全ては 未来へと繋がることを 冬が暖かい季節へと遷り変るように 窓が鏡へと移ろう穏やかな時間を感じながら バランスが取れていれば全て大丈夫 遠くに映るランプの灯りが不思議と綺麗
私は、特にこの部分に感動しました。オープニングの「Driving Home Late」では”自分のやっていることに不安を感じながらも前へと進まなければいけない葛藤”を表現し、エンディングの「Guest Room」では”今ここで起きているということは全て繋がっている”と歌っています。この最後の曲のメッセージは、本作をひとつにまとめているように思えます。この曲を制作した背景を教えてください。
[Natalie:]この曲は数ヶ月間、友人のゲストルームに滞在していた時に書いたものです。そこは屋根裏部屋で、空を真上に見上げることができる美しい窓がありました。
「Guest Room」のほとんどは、そこで一晩中、ただ空を見上げては様々なことを振り返って書いたものです。それまで過ごしていた場所とは対照的に、平和で幸せな感覚に新しさがあり、まるで春の始まりのように、すべてが再び動き出すような気がしたのです。これまで居た場所から離れて、新しい場所に慣れる前だからこその、もうひとつの「間」でした。このような瞬間に、言いたいことがたくさん出てくるので、それを最大限に生かしながら書き続け、最終的に完成したのがこの曲です。
最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
私の音楽が皆さんに届いているのを見ると、本当に嬉しくなります。
いつか皆さんの前で演奏したいと心から思っています。応援してくださって本当にありがとうございます。
そしてRodentia Collective、丁寧な質問をありがとうございました!

Natalie Evans
Bandcamp : https://natalieevans.bandcamp.com/album/movements
Instagram : https://www.instagram.com/nataliehevans/
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